こけし日記

読むことと書くことについて

2022年の8冊

毎年恒例の今年の○冊。(順不同)
本当は毎月読書記録をつけたかったけど、忙しくて4月でストップしてしまった。あとでまとめ直すかも。今年はあんまり新刊とか人文書を読まなかった。

※書評で取り上げた本、自主制作流通系の本は除きます。

『おっぱいとトラクター』マリーナ・レヴィツカ  著・ 青木 純子 訳


藤原辰史『トラクターの世界史』に出てきて読んだ。イギリスのウクライナ移民の話。
80歳を超えた父親がビザ目当ての30代女性と再婚するという騒動が持ち上がってという話。両親のルーツとウクライナの歴史が重ね合わされ、そこにイギリスの移民問題、移民2世の問題などもからむ。とはいえ、すごくユーモアもあって、難民・移民を決してかわいそうな人たちとは描かない。まさに「人間」を描いている素晴らしい小説だった。

釜ヶ崎と福音』本田哲郎

釜ヶ崎で活動する神父・本田哲郎氏の本。小さく貧しくされた者の声をいかに聞けるか、そういう人たちと同じになって共感するんじゃなくて、そこから学ぶんだ、その人たちが立ち上がれるように、その人たちの声を聞いて実現するよう活動するんだ、というようなことが書いてあった。教育においてもそういう面があると思う。

『限界から始まる』鈴木涼美上野千鶴子

鈴木涼美さん苦手だったけど、これを読んでからなんか目が変わって文章を読むようになった。小説もおもしろくて今スピンで連載中のも読んでる。小説家の藤野可織さんとの対談もおもしろかった。去年は千葉雅也の魅力を知ったが、今年は鈴木涼美の魅力を知った一年だった。

cotogotobooks.stores.jp


『階級を選びなおす』茅辺かのう


茅辺かのうは戦後初の京大に入った女子学生の一人で、2回生くらいのときにやめて上京して労働運動とかにたずさわっていたらしい。そのあと編集者をやっていたが、急に60年代に全部すてて北海道に単身移住して、農業や漁業や阿寒湖の土産物店などで働いて、アイヌの人たちと交流したりして、また京都に戻ってきて、そして亡くなったそうだ。その北海道暮らしを描いたもの。
文章のギリギリ感が岡映里や植本一子を思わせる。
編集グループSUREの評伝もおもしろかった。
そこで『アイヌの世界に生きる』はがらっと文体が変わったという話が出てきて、自分はそういうギリギリの文体で書きたいと思ってきたが、それでは読む人に負担かもというようなことを思ったり、いろいろ考えた。
月曜社から復刊予定らしいので楽しみだ。
思想の科学のメンバーと交流があったそうで、来年は思想の科学関連の本をいろいろよみたい。

www.groupsure.net


『いつかたこぶねになる日』小津夜景

ずっと積読状態で今年やっと読めた。結構今まで読んだことないものを読んだっていう新鮮な文章だった。フランスとか漢詩っていう対象もそうだし、なんか話が思いもよらないところに進む感じもそうだし、文体も新鮮でよかった。
自分の文章の文体について、私の文はこういう遊びがないと思って、すごく考えさせられた。これを読んでからデスマス調で書いてみようと思って、文体を変えた。

『整体対話読本 お金の話』川崎智子・鶴崎いづみ・江頭尚子ほか

オフショアの山本さんに勧められた本。今年読んだ中で、茅辺かのうの本とおなじくらいインパクトがあった。
正直以前読んだ野口整体の本は何を言っているか理解できなくてさっぱりだったので、全然あたまの使い方が違うんだと思う。初読ではなかなか理解できず、なんどかメモをとりながら読み返している。お金の使い方、どうやってそれを得るか、そのために何の仕事をするかなどなど、生き方を考え直すのに役立った本だった。

『まじめな会社員』冬野梅子


私にとってはセルフカウンセリング漫画だった。
商業出版の編集の仕事をやめて、作家活動と夜学舎の方に振り切るのに、あみ子いなくてはできなかった。2021年から22年自分の辛かった時期に自分を振り返るのに伴走してくれた漫画だった。
2023年、あみ子と冬野梅子先生に幸あれ!!

 『どこにも属さないわたし』イケムラレイコ


三重のひびうたのイベントで買った。
ドイツでアーティストとして活動するイケムラレイコの自伝。
女性で、異邦人という2重のマイノリティ性をもちながら、個としてどう生きるかを模索した本。

嫉妬、不安で苦しい時に読んだので、この文章がずしんときた。

私はどの美術界にも直接的には所属していない代わりに、さまざまなグループにつながりがある。グループにどっぷり属していないということは想像以上につらいこともあるし、マイナーとして扱われると傷つくこともある。それが自由の代償でもあるのだと自覚している。それと引き換えに、世界と直接関わっていく可能性が広がる。
私は意識的に難解な場所に自分の身を置いているのかもしれない。今の状況を嘆くことはない。ほかの人たちがやらなかったことにチャレンジしているのだと自分に言い聞かせている。属さないというのは、異端者ではない、アウトローではない。
個からはじまることで、個に触れ合える。そうやって、初めて本当の意味でつながることができるのではないか。(122−123ページ)

来年はどんな本が読めるのだろうか。楽しみだ。

 

 

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