こけし日記

意見と読書

アンラーン

この間『鎌倉殿の13人』を見ていたら、
鎌倉幕府の行政機構って、政所と侍所とあとなんやっけ?
ってなってすごいショックだった。
あんなに受験勉強したのに!
一応地歴の高校免許もとったのに!
(答えは問注所

日本語教師の研修で、一度身につけた知識がもつ期限は4年(5年だったかも)だから常に学び続けないといけないって言われたのを思い出した。
日本史なんてよく考えたら20代後半までやってた問題集の仕事して以来ほとんど触ってない。
じゃあ忘れて当然だ。

アンラーンって言葉がある。
学び壊すとか学び捨てるという訳語が多い。
インドの哲学者のスピヴァクが言った言葉らしいが、一度学んだことを捨てて、もう一度新しい知識を身につけ直すみたいな意味らしい。
最近はビジネス書とかでも使われるようになってきてて、こういう本も出てるみたい。



読んでみて、自分は今アンラーンの時期なのかなと思った。
社会学とか、人文書とか出版とか、なんか20代の貯金と積み重ねでやってきたけど、なんかそれが自分の現実と合わなくなっちゃってすごい違和感があるのかなと思った。
だから、今、自分がその世界に対してなんか冷めた目で見ちゃうのも、
自分は変わっちゃったのに、思考の癖とかやり方は残ってて、それが今の自分と合わなくてすごく違和感を感じるんだと思う。

つまんなくなったって思うこと悪いことだと思ってたけど、それは自分が変わったってことなのかもしれない。
そういう変化についていけてなかったり、変わった自分を受け入れたくなかった。
そのせいで、ちょっとここ何年かしんどかったのかもしれない。

アンラーンって言葉を知る前は、最初のものを選び間違えたから1からやり直しだ、みたいにマイナスに捉えてた。
けど、アンラーン によって、新しい余白ができたり、解して編み直したりそれになんか付け加えることで新しい何かが生まれるから、マイナスじゃないとわかった。

あと、内容だけじゃなくて、やり方もアンラーンした方がいいのかもしれないと思った。
前はいかに効率よく早く成果を出すかばかり見てた。
けど、英語の勉強を続けていて、ゆっくり時間をかけて、何度も同じことを、趣味程度に疲れないように、自分の楽しみの範囲で、っていうのも効果があるなってわかった。
だから、もう前みたいな一直線にゴールを目指すみたいなやり方はやめようと思った。
今だと男性学とかの「弱さを認める」とか人文系の人のよく言う「資本主義から降りる」って言葉で言われちゃうんだと思うけど、その言い方がなんかあんまりしっくりこなくて違和感があった。
なんか特権捨てるみたいな、けどそんなもの持ってへんわと思うし、資本主義行き過ぎとかってもっと投資とかやってる人が言えばいいと思うからそういう言葉を使いたくないって感じがする。
けど、アンラーンだとそういうニュアンスがないからすごいしっくりきていい。

40代はまだまだ若いしなんでもできるって言う。
それはその通りかもしれないけど、できるのは「なんでも」じゃなくて、今までの積み上げとか経験を壊した中からの「何か」じゃないかと思う。
前の自分だったら、何か新しい目標を無理やりにでも作ってそれを目指して一直線にゴールに向かうようなことをやってたけど、そういう態度ごとアンラーンしたい。
そして、そういうゆっくりとか何度も同じことをとか楽しくやるとか、一度学んだことを捨てるとかそういうのを恐れない態度、気持ちをラーンしたい。

人の信仰について

自分は日本人だからお葬式を仏教でして、正月は神社に行って、人生の節目にお宮参りや七五三を当たり前に行く、というのが当然だと思っていた。
しかし、公言していないだけで、何かしらの信仰をもっている人や宗教2世という人は意外と多いことに気づいた。
正直自分はこれまで、宗教に関して無神経な発言を多くしてきた。
新興宗教=狂信的な集団というような偏見がどこかにあった。やはり、95年のオウム事件の影響が大きかったせいだ。

先日自分の作った雑誌にムスリムの方のお酒についての経験を寄稿してもらった。

yagakusha.hatenablog.com


信仰でお酒を飲まないという生活をしている人に対して、「飲めないのは人生を損している」とか「かわいそう」と言うのは、こちら側の勝手な意見の押し付けだ。
信仰をもつということは並大抵のことではできないし、それを維持することも並大抵のことではできない。

信じないとか必要ないと言っているのに強要してきたり、何か迷惑をかけられたり、監禁や悪徳商法といった犯罪行為をしてきたら批判もしたくなるが、そうでないなら、人の信仰は人の信仰で尊重する必要があるのではないか。

宗教=狂信的とか変わった人という考えがそもそも間違っている。
それで心の平安が得られたり、居場所となっている人もいる。
一概に信者を頭や考えが足りないとか科学的でないと揶揄したり批判したりするのはちょっと違うのではないか。

また宗教2世に関しては、知らないだけで思っているより身の回りにいるのではないだろうか。
実際に当事者の話を聞いたり書いたものを読む機会を得て、自分で選んだ信仰ではない分複雑な気持ちをもっている人もいると知った。
人によって信仰のグラデーションもさまざまのようだ。

自分の身近な人が何かの宗教の信者かもしれない可能性だってある。
勧誘しないで自分の信仰を貫いている場合もあるだろう。
だから、あまり宗教をネタにしたり、それを信じている人を悪魔化して自分とは違うと線を引きすぎるのも、「○○は私だ」とか「一歩間違えば自分も」と過度に共感を抱くのもどうかと思った。
その人が普通に付き合える人なら、過剰な反応をせず、普通に付き合うのが大事だと思った。



選挙に行くのがだるくても

カナダに住んでいたとき、首相選挙があって私は選挙権がないので投票できませんでした。私はそれまで選挙権があるのが当たり前だったので、もしかしたら自分の周りにも選挙権がない人がいるのかもしれないということを考えたことがありませんでした。
選挙の話題となるとき、選挙権があるのが当然、投票できて当然、というスタンスで語ってしまいがちです。でも、カナダでの経験から、もしかしたら周囲には外国籍で選挙権がない人がいるかもしれないと考えるようになりました。
選挙の時期になるたびに、そういう人たちが周りにいるかもしれないことを忘れないようにしようと思いました。

また、以前、カナダに住んでいたとき、衆院選があって在外投票をしました。当時は在外投票は大使館まで行くか郵送でした。投票は大事ですが、郵便事情が悪い国の場合やどうしても大使館まで行けない場合は棄権せざるをえないだろうと想像できました。
今私は日本に住んでおり、選挙権があり、投票所が近くにあります。だから、そのときのことを忘れないようにしようと思いました。

この文章を読んでくださっている人の中には、選挙権があって投票所もあるけどなんかだるいし行きたくないみたいな感じの人もいるかもしれません。
でも、少しでもいいので、選挙権がない方のことや仕方なく棄権しないといけない人のことを考えてもらえたらと思いました。

やはり、選挙権がもらえているということはとてもラッキーなことだと思います。
せっかくあるこの特権を今日生かさないでいつ生かすのでしょうか。

kokeshiwabuki.hatenablog.com

2022年4月の読書記録

『母親になって後悔してる』オルナ・ドーナト (著)、鹿田昌美


女性が身体とか自然の方に割り当てられてあたかも子どもを産むのが当然みたいになってるのに意義申し立てをしている文章を今まで読んだことがなかったので、すごくよかった。あと、新自由主義社会では後悔は忌むべき感情とされているという分析も面白かった。たしかに私も子どもがほしいかどうかはっきりわからないのに、何かしておいた方がいいかもとずっと悩んでいたけど、それは、「後悔しないように」という気持ちからだった。
「後悔しない選択を」という言葉が、「正しい選択をしなければ」というプレッシャーとなる。後悔しても別にいいんじゃないか、人の考えは変わるんだし、というような柔軟さが減っているような気がする。後悔しないが行きすぎると返って生き方を狭めるのではないか。本筋とは離れるが、読みながらそんなことを考えた。

水納島再訪』橋本倫史


感想はこちらにまとめました。

portla-mag.com


『夢を見る』『赤い砂を蹴る』石原燃


書評では主に「彼女たちの断片」に触れたが、他の2作品もすごくよかった。
小説の『赤い砂を蹴る』には、共通するような人物も出てくる。
お母さんの津島佑子の小説も読みたくなった。

『きみはいい子』中脇初枝


どれも胸がぎゅっと詰まるような作品。
子育てとか、児童虐待を扱った連作短編集。

現代思想家政学の思想』

全体的に読み応えあってよかった。もうちょっと日本の家政学とか生活学の歴史とかもあるのかなと思ったけど、そこまではなかった。佐藤靜さんの奴隷と家事労働と移民の話と、藤原辰史さんと阿古真理さんの対談が面白かった。

現代社会はどこに向かうか』見田宗介

亡くなって悲しい。これが遺作になるのかな。

『いつかたこぶねになる日』小津夜景


買って積読状態でやっと読めた。結構今まで読んだことないものを読んだっていう新鮮な文章だった。フランスとか漢詩っていう対象もそうだし、なんか話が思いもよらないところに進む感じもそうだし、文体も新鮮でよかった。

・『恋じゃねえから』渡辺ペコ

中学時代、友達と付き合ってた塾の先生がアーティストになってて、友達がモデルかもしれない作品を作ってたってところから話が始まる。
タイトルが最初コメディかと思ってたけど、読み進むにつれて、関係の非対称性を端的に表した言葉で、この話を一言で言い表してることに気付いて、すごい!と思った。『1122』もすごいよかったから楽しみ。

 

・『違国日記』9巻 ヤマシタトモコ

槙生が次女で、好きなことやってて、たまたま朝を引き取った話なのがいいなと思った。こういう話、槙生が長女とかで義務感で子育てみたいな感じにも持ってけるけど、そうならないところが新鮮でいいなと思う。

・『奈津の蔵』尾瀬あきら


めちゃめちゃ面白かった!
男が戦争でいなくなって、女がこれまで禁じられていた酒造りに携わる話。
ただ蔵はずっと継いでいくものっていう物語のいちばん根底はちょっとしんどい・・・。

・『ながたんと青と』磯谷友紀

舞台は戦後すぐの京都の料亭で、見合いで政略結婚的に15歳差で結婚した夫婦が料亭を立て直す話。
細腕繁盛記的なやつかと思いきや、年の差婚、妻側の姓、血の繋がりのない家族など、要素が今っぽい。
あんまり意地悪な人とか嫌な人が出てこないので、あっさり読めるのがいい。

・『おうちさよなら日記』杉山由香

kakezan.thebase.in

母の死をきっかけに実家を片付けた建築家の日記。
実家じまいめちゃ興味あるので買ってみた。
実家じまいって重くなりそうだけど、この本は文庫本サイズで写真が多くて、文章も重い感じではないので、気が向いた時に読める軽めの作りがいい。

2022年3月の読書記録

『限界から始める』

鈴木涼美さんはデビューしたとき、なんか苦手だった。
何が苦手かわからなかったのだが、この文章を読んでよくわかった。

稼いだお金を払ってまでセックスしたがる男に対して、同じ行為をお金をもらってする自分、セックスを大切に保管している女性に対して、それを粗末に扱える自分は、優越感を持っていられます。(P117)


私は大事にしている方の人間だったので、鈴木さんのあの軽やかな文体を読むたびに「あんたにはこんなことできないでしょ」とか、「私は欲望される側の女なのよ」みたいな空気を感じて苦手だった。
でも、鈴木さんもその業界で傷つけられたり、苦痛を感じている部分があるとか、そういう態度は逆に鈴木さんが生き延びるための生存戦略的なことだったと書いてあって、前みたいな苦手意識はだいぶ薄らいだ。上野千鶴子さんも怖い人というイメージだったけど鈴木さんに対してものすごく寄り添うというか、ただ受け入れるんじゃなくてあなたと私は違いますと言いながら、何で傷ついているのか理解しつつ突き放したり、踏み込んだりしていて、その手綱さばきがすごいなと思った。
ウィークネスフォビアとか、名誉男性的ふるまいといった言葉が出てきて、自分がいかに家父長制を内面化していたかに気付かされた。そして、そういうふうに合わせないとみたいにがんばってきたことにも疲れたし、そうやって合わせていろんなことをなかったことにしたせいで傷ついてきたことにも気づいた。

 

『筆録 日常対話 私と同性を愛する母と』

台湾の土着の葬式のときにやる牽亡歌陣という芸能をやりながら生計をたてる一家に生まれたホアン監督が、女性が好きな母に話を聞いた『日常対話』という映画の監督ノート。
母の人生の大変さだけでなく、ホアン監督の人生の大変さも描かれている。
読んだ後しんとした気分になった。
これは映画も見なければと思ったけど、上映終了。いつか絶対見たいものだ。

www.smallt

『るるるるるんvol.3』
かとうひろみさん、UNIさん、3月クララさんの3名による文芸ユニットが定期的に発行する文芸誌。

lulululun.tumblr.com
須磨海浜公園前にある自由港書店で購入。
毎回お題があって、それに合わせた作品が収録されている。今回のテーマは鏡。
かとうさんの作品は、普通とか日常の大切さとかこちら側にふみとどまるのが大事みたいな話。まっとうさの大切さみたいな内容で、鏡はそれを写すものっていう感じ。
UNIさんは転勤族の妻の話。一見恵まれているように見える人の虚しさとか辛さとか、でも恵まれてるように見えるから共感してもらいにくいから一人で抱え込んじゃう感じとか、よくわかる。鏡が本心を引き出す感じ。
3月クララさんのは結構ひねりのある作品で、場面転換が大胆。読後感が、ちょっと気持ち悪い感じと爽快感の混じる不思議な余韻がある。鏡はルッキズムや呪いをかける道具って感じ。
三者三様で、個性が出ていて面白かった。

『馬馬虎虎 (マーマーフーフー)vol.2 タイ・ラオス紀行』
真面目に行きすぎず、ちょっとゆるくてくすっと笑える感じがまさにタイトル通りの馬馬虎虎(台湾の言葉で気楽にとかまあまあという意味)。
感想はこんどレビューを出します。

ryodanjyo.com

 

『つつがない生活』

『牛乳配達DIARY』のINAさんの作品。
地方在住の20代の夫婦。妻の歳の離れた小学生の妹がときどき遊びに来て、子守をしたり、バンドでアメリカ巡業に行ったり、地に足ついた生活の中で感じるちょっとした喜びや寂しさなんかを書いている。
結婚前に付き合ってた頃、手作り弁当もらって泣いて食べてるシーンがすごいよかった〜。

 

死者の書』上下

大学生のときに大塚英志『木島日記』読んで、折口信夫のこと知って『死者の書』読んだときはなんだか不気味で気持ち悪い話だな〜という感じだった。この間二上山に登ったので、舞台だからもう一回読んでみようと思って読んだ。
漫画だとまだ小説よりどういう話かわかりやすかった。
物語のキーになるのが、春分の日とか秋分の日で、その前後に奈良で読むと、すごく実感湧いていい。
絶対これも見に行きたい。

www.taimadera.org

www.narahaku.go.jp


『みそっかす』

去年『きもの』読んだらすごくよくて、幸田文はたまに気晴らしに読んでいる。
文章が異様にうまい。

本に年譜が載ってなかったので、wiki見たら、幸田露伴がものすごいお酒飲む人で、16くらいからうちの家事をやってて、弟の看病したりしていて、幸田文って今でいうところのアダルトチルドレンだったり、ヤングケアラーの側面があったりしたのではと思った。

 

『ありのままがあるところ』

鹿児島の福祉施設しょうぶ学園園長の福森伸さんの本。尹雄大さんが構成に入ってるらしい。
職員の話にページが割かれていたのが興味深かかった。
ともすれば健常者の常識を反省しがちだが、健常者、障害者、それぞれ特性があり、それぞれいいところを活かし合えばいいとあったのが印象的だった。
以前『福祉施設発! こんなにかわいい雑貨本』でしょうぶ学園を取材させてもらったことがあり、その際に福祉施設の職員さんというのは八面六臂の活躍だなあと感じていたが、『ありのままがあるところ』はそういう点にも目配りが効いているのがいいと思った。

 

『夢を見る』

今度仕事で書評を書くので読んだ。中絶、男性性暴力、日本人慰安婦についての戯曲が3編収められている。
戯曲はいままでほとんど読んだことがなかったけど、読んでみるとすっと読めた。
やさんのエッセイに出てきた人の声、母の歌」という文章もすごくよかった。『赤い砂を蹴る』も読もう。

www.lovepiececlub.com

 

○おまけ 最近読んでる漫画

断腸亭日乗

www.sunday-webry.com

体調が悪くて病院に行ったら大腸癌だった漫画家の実録闘病漫画。ほぼ同世代なんだよな、この人と思うと他人事と思えず読んでしまう。

『恋じゃねえから』

comic-days.comタイトルで勝手にコメディみたいな感じなのかなと思って読み進めていたら、中学生のときに同級生と塾講師が付き合ってて、そのあと塾講師はアーティストになって、同級生をモデルに作品を作っててって話で、「恋じゃねえから!」は、アーティストに対するつっこみになってる!!
『にこたま』『1122』もすごかったけど、これもすごい話になりそう。

『まじめな会社員』

comic-days.com

相変わらず課金して読んでる。
あみこ、いい方向に行きそう〜と思ったらおいおいそっちか〜いってなってて、でも持ち直しそうになったらまた違うことで大変って感じで、一難去ってまた一難って感じ。
なんか『A子さんの恋人』は都市生活者のクリエイターたちが主人公で、ファンタジーって感じだったけど、あみこは結構リアル。

ツイッターの感想で、"なんのアドバンテージも無い人間をそのまま描けるのは何にも無い人間は描く意味が無いという呪いが溶けてきているからだ。女が自分の惨めさを描けるようになったのは、惨めさを自己解決出来る自信がついたからだ。"っていうのがあって、これカムカムエヴリバディにも通じるな〜と思った。

朝ドラの『カムカムエヴリバディ』も、ひなたは27で恋人と別れて、そのあと英語をやりだすんだけど、結婚できないとかうじうじしたりしないで、家の味を受け継いであんこが作れるようになったし、焼けなかった回転焼きが焼けるようになったし、英語もできるようになった。それは人から見たら小さいことかもしれないけど、ものすごく"自己解決"だなって思う。
自分がどれくらい進歩したかって自分ではわかんないから、人に「すごい」って言われることを求めがちだけど、ほんとに大事なのは人に「すごい」って言われることじゃないってことを、この二つの作品は描いてて、そこがいいなって思った。


週刊金曜日』、QJweb、好書好日、Wezzyなどで書評、著者インタビューを書いています。

【最新情報】
週刊金曜日』3/25号書評欄「きんようぶんか」に小松原織香さんの『当事者は嘘をつく』の書評を書きました。


書評、エッセイ等お仕事依頼はこちらから↓

2022年2月の読書記録

全部じゃないけど、今年から読んでよかったものはなるべく感想あげていくことにした。制作日誌をつけているこけし日報に載せたものもある。

小松原織香『当事者は嘘をつく』

小松原さんはずっとブログを読んでいて、本が出ると知ってすぐに買った。
性暴力被害にあったことから「当事者」となり、そこから修復的司法の研究をして「研究者」になるまでのエッセイ的な読み物。
タイトルや帯だけ見ると重くて読むのが苦しくなりそうだと思ったが、小松原さんの中である程度体験が整理されているのと、性暴力被害者が抱く混乱までもを含めた思考の過程がものすごくクリアに描かれていて読みやすい。
そして、小松原さんはこれを一種の物語として提示しているためか、このような言い方はあれかもしれないが、ものすごく面白い。
まるで小説を読んでいるような感じなのだ。この書かれたことの内容に反してあまりにも読みやすかったのがすごく不思議だった。
小松原さんはケータイ小説を書くのにはまっていたことがあるそうで、そこで読者のことを考えることを学んだとあったから、そのおかげかもしれない。

印象に残ったのは2箇所ある。
第六章で、小松原さんは論文で「先行研究のまとめ」と「自分の考え」が結びつかなかったのが、「突然できるようになった」と書いていたところ。その原因はわからない。一つだけ言えるのがこれ。


「書くことをやめなかった人」だけが「なぜか書けた」と言う。
(P138 )


また第八章の「時間」について述べた箇所も印象的だった。
わたしはある体験の当事者で、それから10年経ったのだが、その出来事に対してある程度客観視できるようになった。それでもやはりまだ向き合い方がわからない部分がある。
加害者を赦すという修復的司法のような赦しが自分に訪れるとは思えない。しかし、第八章に修復的司法を、「点」ではなく、「流れ」の中で見ると言う一文があり、それに救われた。10年前は今苦しいのだからすぐ解決したいという気持ちが強く「時間薬」などと言われると反発していたが、10年を経て自分の受け止め方が変わってきたのを実感すると、時間の流れが大事だとわかる。

時間の流れにまかせるというのは、自分より大きなものに委ねるというようなことだと思う。自分だけの力でどうにもならないというのは、諦めの気持ちに聞こえるかもしれないが、一方で逆に時間がすぎたらどうにかなるのかもと未来へその問題を先送りするというか、一旦手放すようなところがある。わたしにはそれが希望として聞こえた。

 ソン・アラム『大邱の夜、ソウルの夜』


女にとっての帰る場所はどこなのか?
読みながらずっとその問いが頭を離れなかった。
自分は結婚しても大丈夫、結婚しても変わらない、私は私、と授かり婚したホンヨン。
認知症の祖母を介護し、お金を貯めてやっとソウルに出てきたけど、憧れの出版業界では自分の力が生かせずに疲れ果て、母の看病を理由に故郷の大邱に帰ることにしたコンジュ。二人の女性の友情や生活を描く。

家事にあけくれ、不平不満が募って小言ばかり言うような母や祖母のようになるまい、と思い、自分だけはそういう女たちのようにはならないと思って結婚するけど、いつのまにか生活に流され、雑事に追われ、ふと気づけば自分もそんな女たちと同じようになっていると感じたときの絶望感がひしひしと描かれている。
家族の世話は求められるけど、いつまでも家にいられては困る。
結婚して(さらには子を産んでこそ、韓国の場合は男児)一人前、女は家を出るもの、ケア要員としてしか期待されない存在の自分。それでも自分らしく生きたいという葛藤。
ケア要員としてなら家にいられるけど、一人前の人間としては認められない。
また、社会で女性が一人で生活するには過酷すぎる。
女を一人前として扱ってくれる場所を結婚に故郷にも期待できない。
そんな絶望と孤独を苦しいくらいに描いていて、読み終わったあと泣いてしまった。

チョン・セラン『保健室のアン・ウニョン先生』

不思議なものを見る力を持っている保健室のアン・ウニョン先生が、おもちゃの剣とBB弾の銃で怪異に立ち向かうという学園ファンタジー。
その怪異の原因の一つがエロエロパワーで、そこが面白かった。
保健室の先生って、日本だとものすごく性的に描かれがちなのが、エロエロパワーから生まれた怪異を倒すってなんか皮肉きいてていいなと思った。
あと、保健室の先生ってどこかお母さんぽかったりエロく描かれたり、要はケア的存在と見做されがちなんだけど、この本では専門知識をもった専門職、一人の大人の女性として描かれていて、そこもよかった。
学園物だけど大人の目線で描かれてて、教師たちやウニョン先生がリアリティのある大人の姿で、そこも読みやすかった。

富永京子『みんなのわがまま入門』


社会運動に対する見方を変えてくれた本。
自分があまり元気でないときや余裕のないときに、ネットなどでデモに行けとか選挙に行けという呼びかけを見るとげんなりしてしまうことがあった。
でも、別にその人たちは私に説教しているわけではないし、
実際声を上げて社会が変わらなくても、上げることでほかの人が言いやすいという効果が大事なんだと書いてあったのでそんなに神経質にならなくていいかと思った。
また社会運動にはいろいろなやり方があって、自分の参加できる範囲で参加すればいいというようなことが書いてあったのもよかった。
ネットだとデモとかツイッターだけが社会運動みたいに見えているけど、それぞれやれる場でやればいいのかとわかって少し気が楽になった。

ECD『失点インザパーク』


ECDさんは誕生日が一緒なので親近感がある。
結構倫理的にどうなのかって話もいっぱい書いてあったけど、俺こんなに悪なんだぜという感じが全然なくて淡々と書いてあってそれが逆に怖かった。

小松原織香『性暴力と修復的司法』
上にあげた『当事者は嘘をつく』の小松原さんの博論。
専門書で読めるか心配していたけど、論理構成がはっきりしており、文章もものすごく読みやすかった。

 



『当事者は嘘をつく』で「論の立て方を学ぶ」という書くことについて書かれた章があったが、そこで小松原さんは

 

文章は読み手に向けて書かねばならない(125ページ)

と言っていた。
読みながらこの本はそれをものすごく意識してかかれたものだと伝わってきた。

三品輝起『雑貨の終わり』

西荻窪の雑貨屋FALL店主による随筆集。
前にイベントで『B面の歌を聞け』で出店させてもらってどんな店か知りたくて読んだ。
お父さんの話と、高校時代に文豪ぶって温泉旅館に泊まった話(手配は全部お母さん)と、レゴ好きの同級生の話が印象的だった。
お父さんが昔経営者インタビューをやってて、100人超えたら泣きついてきたりやばい相談をされたりするから、100人超えたら気を付けろという話が印象的だった。
私もこれからインタビューショップっていう事業をやろうと思ってるけど、100人は目安にしようと思った。


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2022年1月の読書記録

全部じゃないけど、今年から読んでよかったものはなるべく感想あげていくことにした。制作日誌をつけているこけし日報に載せたものもある。

アリ・スミス『冬』



ここ2年くらい、自分の状況がしんどくて、他人への想像力を持つ余裕がなかったけど、やっぱこういう物語読むと心があたたかくなっていいなと思った。

エマ・ドナヒュー『星のせいにして』

第一次大戦下のスペイン風邪が流行するアイルランドを舞台にした小説で、
カナダのエマ・ドナヒューによって書かれたもの(翻訳は、吉田育未)。
主人公は産科の発熱病棟の看護師で、一人で病室を担当することになったある数日を描く。
この閉ざされた密室劇で登場人物が少なくてみたいな設定も好き。
当時の女性参政権論者やフェミニストの活動、看護師という職業に対する偏見や男性職員の扱いが描かれていて、それが今の女性たちの置かれた苦境と違わないものがあって驚く。
しかも産科病棟が舞台で、第一次大戦中のパンデミック下を舞台にしていることで、現代との共通性が感じられ、今のケアギバーたちに思いを寄せられるような内容になっている。
それと、アイルランドカトリックなので中絶ができない国だそうだけど、そのことが女性にどれほど負担なのか、性教育の不足がどれほど女性の健康を損なうかが描かれていて、720円で手に入る経口中絶薬を10万円に設定したり、緊急避妊ピルも薬局で手に入らないような日本で、是非読まれてほしい小説だと思った。

神田桂一『台湾対抗文化紀行』


ライターの神田桂一さんの8年がかりで台湾のカウンターカルチャーを追いかけた記録。あとがきにかえての「就職しないで生きるには」もよかった。この8年は神田さんの遅れてきた青春でもあったんだなと実感。

山尾美香『きょうも料理』

きょうの料理』を振り返りながら、どうして料理=女性の仕事のようになっているのかを分析した本。結婚して毎日料理を作らなければいけなくなった著者のリアルな気持ちがところどころ文章に込められており、非常にいい。20年近く前の本だが古びない。
時々例えば『美味しんぼ』の山岡のような料理や家事をてらいなく楽しめる男の人に対してモヤモヤした気持ちを抱くことがあり、この気持ちがなんだったのかよくわからなかったが、義務前提でやらないといけないというプレッシャーから解放されてのびのび趣味や技芸として楽しんでいることに対して抱く複雑な気持ちだということがわかった。

日本のフェミニズム「母性」



田間泰子さんの「中絶の社会史」が面白かった。戦前は堕胎罪があり、犯罪とされ、戦後はベビーブームで子供が増えすぎて養えない人が増えたことから、条件付きで可となり、中絶が増えすぎたことから胎児にも命があるというような言説が生まれてき、罪悪感をかぶせて中絶を抑止しようとする。国の政策と制度で結構コロコロ変わってて、正直「産む産まないは私が決める」というスローガンはまだ絵空事だと思った。

田中希生『存在の歴史学


学術書なのに異様に文体がエモい。この感じに引っ張られて分厚い本だが結構読める。

 

歴史家のみならず、言語にたずさわるあらゆる学者が全財産を賭けて参加せねばならないのは、言葉は現実に達しないという諦念の先取り競争ではなく、言葉には現実にはたらきかける力があると透谷が信じ込んでいた、文士のする戦いのほうではないだろうか。162ページ(存在の歴史学

 

森崎和江『闘いとエロス』


谷川雁と自身の関係がモデルと思われる活動家室井と契子の小説パートと、実際二人が関わったサークル村や大正行動隊関連の資料とが交互に現れる変わった体裁の本。室井の性格がいちいち腹が立ってしまい、なかなか進まない。『無名通信』の読者投稿を紹介したパートが面白かった。

『外国語学習の科学』白井恭弘

外国語を学ぶ「第二言語習得論」についての本。
いろんな理論が網羅的に紹介されており、コンパクトでよい。
日本語教師養成講座で習ったけどもう5年前のことでだいぶ忘れていたので、復習にもよかった。

qjweb.jp


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