こけし日記

読むことと書くことについて

2021年の7冊

今年はあんまり新刊本を読めなかった。
古い本も多いけど、今年読んで面白かった本(一部雑誌収録)のメモをはっておきます。
※ブログで感想書いたのはのけました。

・『ヒロインズ』ケイト・ザンブレノ(西山敦子訳)

3月くらいに読んだ。
何書いたらいいかわからなくなってて、結局自分は自分の人生を元に何か書きたいのはわかったけど、そんなの読む人いるのかしらと思って時期だったので、すごい元気が出た。
この一文読んで、もう自分はこの路線でがんばろうと思った。

私たちの物語が伝わる方法はただひとつ、私たちが自分で書くことだ。(中略)私たちはアマチュア。私たちはただのファン。女性による書きものを侮辱するあらゆる言葉に、私たちはたしかに当てはまる。だからこそ、それらの言葉の持つ意味を、自分たちで再び定義し直す必要がある。「マイナー」とか「アウトサイダー」とか「異端的」という分類も同じことだ。(P.400)


・櫻木みわ コークスが燃えている(『すばる』2021年4月号)



編集者の人に教えてもらって読んだコロナ禍小説。
30代後半、非正規雇用の独身女性が、10以上年下の元彼と再会して、そこからいろいろ起こるという話。
コロナは女性の貧困を招いたという。
ニュースだと人ごとという感じだけど、それをある人物に焦点をあてて、描いたような小説でものすごいリアルだった。
主人公にふりかかる出来事、不安、どうしようもできないことに対する悲しみ、憤り、理不尽だと感じるけど誰も責められない心情などが読んでいてものすごくもどかしくて、辛くて、何度も自分だったらどうするだろうとものすごく考えてしまった。


・ライティングの哲学 千葉雅也、山内朋樹、読書猿、瀬下翔太

今年読んで一番面白かったかも。
冗長さを恐れず、完璧に仕上げなければという恐れを捨てて、「書かないで書く」スタイルはいかなるものか。机の前で毎日同じ時間に粘るだけが書くことじゃないと、「書くこと」への固定観念を変えてくれた本。
あと、これを読むまで、机に向かってちゃんと書かないととか内容がちゃんとしてないとダメって思ってて、喋って書く人とか対談の起こしとかで書く人はちゃんと書いてないんじゃとか思ってたけど、自分の頭が硬かったなと思った。
なんていうか、文章の上手さとかまとまりで勝負しようとする発想が古いっていうか狭いっていうかそういうようなことを思った。

『ライティングの哲学』と合わせて千葉雅也さんの『デッドライン』と『オーバーヒート』も読んだことで、書くことって力んでやることじゃなくて、毎日の生活の中の一部として続けるのが大事かもと気付かされた。
これら小説が2つとも書くことについての小説だったのも面白かった。
来年はもう少し生活の中で自然に書くみたいなことを考えていきたい。

・『下下戦記』吉田司

『MINAMATA』公開だから去年からいろいろ水俣病の本を読んでて、ずっと読みたいと思っててなかなか手に入らなかったけどやっと古本屋で見つけて買った。
胎児性水俣病患者の若者宿をやっていた吉田司のルポ。
患者たちの作文とかも入ってて、吉田は記録者って感じで主役は若者宿に集う患者たち。性とか恋愛とかお金とか生の声がリアルだった。
ただ補償してもらって、お金をもらったらおしまいじゃない、働きたい、地域で認められたい、人並に生活を送りたいという切実な声が様々な語りで何度も繰り返される。
でもその訴えから40年近くたって、どうなんだろう。
それが実現できる社会になっているんだろうか。
なんでこんなに何も変わってないんだろう。

 

・『日本移民日記』Moment Joon


移民ラッパーMoment Joonさんの初めての本。
すごく文章がうまい。日本語がうまいじゃなくて、文章がうまい。
一人称が私で、文章も丁寧で、なのに堅苦しくなくて、こちらに呼びかけてくる感じがして、親密な感じがする。でもくだけすぎていなくて、礼儀正しさのようなものも感じる。
Momentさんは本も出せるくらいなので日本語はものすごくできるのだけど、いまだに「日本語上手ですね」と言われる。逆に話し言葉にはなまりがのこるから、そのなまりによって周りから異質なものと見られる。そのなまりがあることで思うように喋れなかったり、自己嫌悪に陥る気持ちを、「舌に足かせ」があるようだという絶妙な比喩で表現する。
本の中ではMomentさんが外国人嫌悪や差別にあう日常が描かれている。
以前尹雄大さんの本を読んだ時にも、日常的に就職差別や家を貸してもらえない経験をしていることが描かれていた。
が、それは日本人である私は経験しなかったものだ。
この日常を知らないからといって、外国人差別はないというのは違うだろう。それを変えられるのはマジョリティの側だ。
私もこの呼びかけをちゃんと受け取らないとと思う。

・『ポロポロ』田中小実昌

大山海さんの『奈良へ』のトークショー行った時に、大山さんが影響うけた本として挙げられていた。
読んでみたらすごい好きな文体だった。
戦中派の諦念と極限状態を生き残ったがゆえに持ってるものすごい現実主義みたいなのがある文章がわりと好きなんだけど、そこにユーモアが入り混じって、なんとも言えない味のある文章。
大山さん日記もすごいいいねんな〜。

note.com


『奈良へ』のレビューはこちら。

portla-mag.com


・『TOEICテスト300点から990点へ7つの壁を突破するブレイクスルー勉強法 清涼院流水

高校の時にメフィスト賞とか、講談社ノベルスとかにはまってて、清涼院流水の『コズミック』とかJDCシリーズとかバカバカしくて好きだった。
なんか急に読みたくなって検索したら、英語本をいっぱい出しててびっくりした。
30代で英語にハマって社会人英語部を立ち上げて、990点(最高点)を取ったらしい。
そして今は日本のミステリやエンタメを英訳して販売する会社を立ちあげてるらしい。私はそれにものすごい感動して、私も英語またやろうと思った。
カナダに住んでたときは英語いやいややってて、いやいやTOEICも受けてて、少しずつ点は上がったけど、あんまり自慢できるような点数じゃなかった。
そのうち問題が変わってまた対策が必要になって点数が落ちた。
一昨年定期的に受けてたらコロナになってしばらく中止になったり、抽選制になったりしてまた受けられなかった。
コロナの間にちょっとずつ勉強しててまた今年久しぶりに受けてみた。
ちょっとずつ上がってるけど、まだ満足いかない。
そんなときに読んで、もうちょっと満足できる点数までやろうとやる気が出てよかった。

あ、あと忘れてたけど、英語のやる気出たっていったら光浦靖子さんの『50歳になりまして』もよかった。

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