こけし日記

意見と読書

2022年3月の読書記録

『限界から始める』

鈴木涼美さんはデビューしたとき、なんか苦手だった。
何が苦手かわからなかったのだが、この文章を読んでよくわかった。

稼いだお金を払ってまでセックスしたがる男に対して、同じ行為をお金をもらってする自分、セックスを大切に保管している女性に対して、それを粗末に扱える自分は、優越感を持っていられます。(P117)


私は大事にしている方の人間だったので、鈴木さんのあの軽やかな文体を読むたびに「あんたにはこんなことできないでしょ」とか、「私は欲望される側の女なのよ」みたいな空気を感じて苦手だった。
でも、鈴木さんもその業界で傷つけられたり、苦痛を感じている部分があるとか、そういう態度は逆に鈴木さんが生き延びるための生存戦略的なことだったと書いてあって、前みたいな苦手意識はだいぶ薄らいだ。上野千鶴子さんも怖い人というイメージだったけど鈴木さんに対してものすごく寄り添うというか、ただ受け入れるんじゃなくてあなたと私は違いますと言いながら、何で傷ついているのか理解しつつ突き放したり、踏み込んだりしていて、その手綱さばきがすごいなと思った。
ウィークネスフォビアとか、名誉男性的ふるまいといった言葉が出てきて、自分がいかに家父長制を内面化していたかに気付かされた。そして、そういうふうに合わせないとみたいにがんばってきたことにも疲れたし、そうやって合わせていろんなことをなかったことにしたせいで傷ついてきたことにも気づいた。

 

『筆録 日常対話 私と同性を愛する母と』

台湾の土着の葬式のときにやる牽亡歌陣という芸能をやりながら生計をたてる一家に生まれたホアン監督が、女性が好きな母に話を聞いた『日常対話』という映画の監督ノート。
母の人生の大変さだけでなく、ホアン監督の人生の大変さも描かれている。
読んだ後しんとした気分になった。
これは映画も見なければと思ったけど、上映終了。いつか絶対見たいものだ。

www.smallt

『るるるるるんvol.3』
かとうひろみさん、UNIさん、3月クララさんの3名による文芸ユニットが定期的に発行する文芸誌。

lulululun.tumblr.com
須磨海浜公園前にある自由港書店で購入。
毎回お題があって、それに合わせた作品が収録されている。今回のテーマは鏡。
かとうさんの作品は、普通とか日常の大切さとかこちら側にふみとどまるのが大事みたいな話。まっとうさの大切さみたいな内容で、鏡はそれを写すものっていう感じ。
UNIさんは転勤族の妻の話。一見恵まれているように見える人の虚しさとか辛さとか、でも恵まれてるように見えるから共感してもらいにくいから一人で抱え込んじゃう感じとか、よくわかる。鏡が本心を引き出す感じ。
3月クララさんのは結構ひねりのある作品で、場面転換が大胆。読後感が、ちょっと気持ち悪い感じと爽快感の混じる不思議な余韻がある。鏡はルッキズムや呪いをかける道具って感じ。
三者三様で、個性が出ていて面白かった。

『馬馬虎虎 (マーマーフーフー)vol.2 タイ・ラオス紀行』
真面目に行きすぎず、ちょっとゆるくてくすっと笑える感じがまさにタイトル通りの馬馬虎虎(台湾の言葉で気楽にとかまあまあという意味)。
感想はこんどレビューを出します。

ryodanjyo.com

 

『つつがない生活』

『牛乳配達DIARY』のINAさんの作品。
地方在住の20代の夫婦。妻の歳の離れた小学生の妹がときどき遊びに来て、子守をしたり、バンドでアメリカ巡業に行ったり、地に足ついた生活の中で感じるちょっとした喜びや寂しさなんかを書いている。
結婚前に付き合ってた頃、手作り弁当もらって泣いて食べてるシーンがすごいよかった〜。

 

死者の書』上下

大学生のときに大塚英志『木島日記』読んで、折口信夫のこと知って『死者の書』読んだときはなんだか不気味で気持ち悪い話だな〜という感じだった。この間二上山に登ったので、舞台だからもう一回読んでみようと思って読んだ。
漫画だとまだ小説よりどういう話かわかりやすかった。
物語のキーになるのが、春分の日とか秋分の日で、その前後に奈良で読むと、すごく実感湧いていい。
絶対これも見に行きたい。

www.taimadera.org

www.narahaku.go.jp


『みそっかす』

去年『きもの』読んだらすごくよくて、幸田文はたまに気晴らしに読んでいる。
文章が異様にうまい。

本に年譜が載ってなかったので、wiki見たら、幸田露伴がものすごいお酒飲む人で、16くらいからうちの家事をやってて、弟の看病したりしていて、幸田文って今でいうところのアダルトチルドレンだったり、ヤングケアラーの側面があったりしたのではと思った。

 

『ありのままがあるところ』

鹿児島の福祉施設しょうぶ学園園長の福森伸さんの本。尹雄大さんが構成に入ってるらしい。
職員の話にページが割かれていたのが興味深かかった。
ともすれば健常者の常識を反省しがちだが、健常者、障害者、それぞれ特性があり、それぞれいいところを活かし合えばいいとあったのが印象的だった。
以前『福祉施設発! こんなにかわいい雑貨本』でしょうぶ学園を取材させてもらったことがあり、その際に福祉施設の職員さんというのは八面六臂の活躍だなあと感じていたが、『ありのままがあるところ』はそういう点にも目配りが効いているのがいいと思った。

 

『夢を見る』

今度仕事で書評を書くので読んだ。中絶、男性性暴力、日本人慰安婦についての戯曲が3編収められている。
戯曲はいままでほとんど読んだことがなかったけど、読んでみるとすっと読めた。
やさんのエッセイに出てきた人の声、母の歌」という文章もすごくよかった。『赤い砂を蹴る』も読もう。

www.lovepiececlub.com

 

○おまけ 最近読んでる漫画

断腸亭日乗

www.sunday-webry.com

体調が悪くて病院に行ったら大腸癌だった漫画家の実録闘病漫画。ほぼ同世代なんだよな、この人と思うと他人事と思えず読んでしまう。

『恋じゃねえから』

comic-days.comタイトルで勝手にコメディみたいな感じなのかなと思って読み進めていたら、中学生のときに同級生と塾講師が付き合ってて、そのあと塾講師はアーティストになって、同級生をモデルに作品を作っててって話で、「恋じゃねえから!」は、アーティストに対するつっこみになってる!!
『にこたま』『1122』もすごかったけど、これもすごい話になりそう。

『まじめな会社員』

comic-days.com

相変わらず課金して読んでる。
あみこ、いい方向に行きそう〜と思ったらおいおいそっちか〜いってなってて、でも持ち直しそうになったらまた違うことで大変って感じで、一難去ってまた一難って感じ。
なんか『A子さんの恋人』は都市生活者のクリエイターたちが主人公で、ファンタジーって感じだったけど、あみこは結構リアル。

ツイッターの感想で、"なんのアドバンテージも無い人間をそのまま描けるのは何にも無い人間は描く意味が無いという呪いが溶けてきているからだ。女が自分の惨めさを描けるようになったのは、惨めさを自己解決出来る自信がついたからだ。"っていうのがあって、これカムカムエヴリバディにも通じるな〜と思った。

朝ドラの『カムカムエヴリバディ』も、ひなたは27で恋人と別れて、そのあと英語をやりだすんだけど、結婚できないとかうじうじしたりしないで、家の味を受け継いであんこが作れるようになったし、焼けなかった回転焼きが焼けるようになったし、英語もできるようになった。それは人から見たら小さいことかもしれないけど、ものすごく"自己解決"だなって思う。
自分がどれくらい進歩したかって自分ではわかんないから、人に「すごい」って言われることを求めがちだけど、ほんとに大事なのは人に「すごい」って言われることじゃないってことを、この二つの作品は描いてて、そこがいいなって思った。


週刊金曜日』、QJweb、好書好日、Wezzyなどで書評、著者インタビューを書いています。

【最新情報】
週刊金曜日』3/25号書評欄「きんようぶんか」に小松原織香さんの『当事者は嘘をつく』の書評を書きました。


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