全部じゃないけど、今年から読んでよかったものはなるべく感想あげていくことにした。制作日誌をつけているこけし日報に載せたものもある。
アリ・スミス『冬』
ここ2年くらい、自分の状況がしんどくて、他人への想像力を持つ余裕がなかったけど、やっぱこういう物語読むと心があたたかくなっていいなと思った。
エマ・ドナヒュー『星のせいにして』
第一次大戦下のスペイン風邪が流行するアイルランドを舞台にした小説で、
カナダのエマ・ドナヒューによって書かれたもの(翻訳は、吉田育未)。
主人公は産科の発熱病棟の看護師で、一人で病室を担当することになったある数日を描く。
この閉ざされた密室劇で登場人物が少なくてみたいな設定も好き。
当時の女性参政権論者やフェミニストの活動、看護師という職業に対する偏見や男性職員の扱いが描かれていて、それが今の女性たちの置かれた苦境と違わないものがあって驚く。
しかも産科病棟が舞台で、第一次大戦中のパンデミック下を舞台にしていることで、現代との共通性が感じられ、今のケアギバーたちに思いを寄せられるような内容になっている。
それと、アイルランドはカトリックなので中絶ができない国だそうだけど、そのことが女性にどれほど負担なのか、性教育の不足がどれほど女性の健康を損なうかが描かれていて、720円で手に入る経口中絶薬を10万円に設定したり、緊急避妊ピルも薬局で手に入らないような日本で、是非読まれてほしい小説だと思った。
神田桂一『台湾対抗文化紀行』
ライターの神田桂一さんの8年がかりで台湾のカウンターカルチャーを追いかけた記録。あとがきにかえての「就職しないで生きるには」もよかった。この8年は神田さんの遅れてきた青春でもあったんだなと実感。
山尾美香『きょうも料理』
『きょうの料理』を振り返りながら、どうして料理=女性の仕事のようになっているのかを分析した本。結婚して毎日料理を作らなければいけなくなった著者のリアルな気持ちがところどころ文章に込められており、非常にいい。20年近く前の本だが古びない。
時々例えば『美味しんぼ』の山岡のような料理や家事をてらいなく楽しめる男の人に対してモヤモヤした気持ちを抱くことがあり、この気持ちがなんだったのかよくわからなかったが、義務前提でやらないといけないというプレッシャーから解放されてのびのび趣味や技芸として楽しんでいることに対して抱く複雑な気持ちだということがわかった。
日本のフェミニズム「母性」
田間泰子さんの「中絶の社会史」が面白かった。戦前は堕胎罪があり、犯罪とされ、戦後はベビーブームで子供が増えすぎて養えない人が増えたことから、条件付きで可となり、中絶が増えすぎたことから胎児にも命があるというような言説が生まれてき、罪悪感をかぶせて中絶を抑止しようとする。国の政策と制度で結構コロコロ変わってて、正直「産む産まないは私が決める」というスローガンはまだ絵空事だと思った。
田中希生『存在の歴史学』
学術書なのに異様に文体がエモい。この感じに引っ張られて分厚い本だが結構読める。
歴史家のみならず、言語にたずさわるあらゆる学者が全財産を賭けて参加せねばならないのは、言葉は現実に達しないという諦念の先取り競争ではなく、言葉には現実にはたらきかける力があると透谷が信じ込んでいた、文士のする戦いのほうではないだろうか。162ページ(存在の歴史学)
森崎和江『闘いとエロス』
谷川雁と自身の関係がモデルと思われる活動家室井と契子の小説パートと、実際二人が関わったサークル村や大正行動隊関連の資料とが交互に現れる変わった体裁の本。室井の性格がいちいち腹が立ってしまい、なかなか進まない。『無名通信』の読者投稿を紹介したパートが面白かった。
『外国語学習の科学』白井恭弘
外国語を学ぶ「第二言語習得論」についての本。
いろんな理論が網羅的に紹介されており、コンパクトでよい。
日本語教師養成講座で習ったけどもう5年前のことでだいぶ忘れていたので、復習にもよかった。
『週刊金曜日』、QJweb、好書好日、Wezzyなどで書評、著者インタビューを書いています。
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