こけし日記

読むことと書くことについて

扉としてのエヴァンゲリオン

ある作品がきっかけになって、それまで興味がなかった分野に急に興味が出て、
新しい世界の扉がばって開くことがある。
わたしにとってエヴァンゲリオンシリーズはそういう作品だ。


テレビ放映時はリアルタイムでは見ていなかった。
わたしのうちにテレビ東京系列の電波が入らなかったせいだ。
しかし、エヴァンゲリオンは社会現象となっていたので、
街にキャラグッズがあふれ、同時代の漫画がエヴァの影響を受けていたり、
エヴァのパロディーをする芸人がいたりしたので、
見ていない割りにはなんとなく世界観を知っていた。

初めて映画版を見たのは、たぶん新劇場版の序が公開された前後だと思う。
ビデオ屋で1巻を借りてきて見たが、
暗くて世界観についていけず、そこまではまらなかった。
その次に庵野監督について意識したのは『風立ちぬ』だ。
最初、声優をしているということすらあまり気に留めずに映画を見に行った。
しかし、すごく声がよくて、役柄にも合っていたので、
なんなんだろうこの人、という感じでずっと印象に残っていた。
そして、『シン・ゴジラ』『アオイホノオ』『ラスト・レター』と、
意図せず庵野監督に関する作品を見ることが多く、
私の中でなんとなく庵野監督のイメージが作られていった。

2年くらい前に利用していた動画配信サービスで
たまたまエヴァの新劇場版シリーズを見る機会があり、
なんとなく見始めた。
見てみるとやっぱり暗いと思ったし、そんなにはまらなかった。
むしろ、なんでこんな暗い話が受けるんだろうという不思議でたまらなかった。


そして、今年『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』が公開されることになった。
すると、周りのアニメファンはもとより、
そこまでエヴァ好きだと思っていなかった人までもが熱狂している。
それが不思議で、どうしてこんなにみんなが夢中になるのか知りたいと思った。
そして、見に行ったらとても面白かった。
不覚にも涙したシーンが2、3箇所あったほどだ。
自分がエヴァに感動していることが意外だったし、
こういう作品で感動できることも新鮮だった。
そして、旧作がどんな作品なのか知りたくなって、アニメ版も見ることにした。


今アニメ版を見ている途中だけど、見るにつれてどんどん引き込まれていっている。
そのはまり方は、リアルタイムの中学生で見る
シンジやレイやアスカに自分を投影して、
「世界に自分はひとりぼっちだ」、「だれもわかってくれない」、
といったようなはまり方ではない。
庵野監督の世界観の中に、いろんな日本映画やアニメの文脈を見つけ、
それを探すのが面白いといったような感覚だ。

わたしが最初アニメ版にひかれたのは、
第一話にやたらかっこいい構図が多いことだった。
「なんじゃこの映像!」と思い、もっとこのかっこいい構図を見たいと思った。
さらに、庵野監督のカット割や構図がかっこいいという意識で
もう一回『シン・ゴジラ』を見てみると、やっぱりかっこよさを感じた。
そして、いろいろググるうちに庵野監督がこれまで作った作品だけでなく、
庵野監督がこれまで影響を受けた作品について知りたいと思うようになった。

ちなみに、わたしはアニメ版が全面的にいいと思っているというわけではなく、
「男のくせに」といったセリフやラッキースケベのシーンが多いこと、
ミサトさんやリツコさんに対するセクハラっぽいシーンが多いことは疑問だ。
けど、それだけで全否定される作品ではないと思う。

話を元に戻すが、はまるというのはその作品の世界観にどっぷり浸ることだが、
わたしにとってエヴァは、はまるを通りこして、
それが違うものへの興味にもつながる扉にもなっている。
そこが面白いと思ったし、
もしかしたらこれが人々が夢中になる理由ではないかと思った。

なんていうか、エヴァというのは、熱狂的、カルト的なファンを
持つような作品なんだけど、
すごく開かれている感じがするのだ。
マネとかパロディーとかいう表面的なレベルじゃなく、
庵野監督が過去に影響を受けた別の作品がエヴァの世界ににじみ出ていて、
それを探りたくなるようなところがある。
だから、エヴァは表面上は間口が狭く見えるけど、
いろんな人が興味をもつフックがいっぱいあって、
実は間口が広い作品なんじゃないかと思った。
そして、そういう他の世界への扉にもなっている作品というのは
そうそうないものだと思う。

もしわたしが中学生の頃にアニメ版を見ていてはまったなら、
こんな見方はできなかったと思う。
また、マイナーなものが好きということで自分の殻を守っていたような
青年期に『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』が公開されていたら、
表面的な部分で判断して、見にいかなかったと思うし、
こういう見方はできなかったと思う。

自分が思春期的な自意識のこじらせのようななものを抜けて、
青年期の斜に構えたような態度も通り抜けて、
面白さを素直に享受できる年齢になったおかげで見に行けた。
また、今アニメ版を見ても世界観に動揺することがないくらい
自分が出来上がっているので、過度な思い入れを込めずに、
純粋に娯楽として楽しめている。
なんていうか、自分にとってエヴァ
中年になって初めて受け入れられる作品だったのかなと感じた。


中年になるとだんだん感動するものが減ってきて、
これまで好きなものをリピートして見るターンになると聞いたことがあった。
また、なかなか新しいものを受け入れられなくなるとも聞いたことがあった。
そして実際、自分にその兆候を感じていた。
それが、こんなふうに思いもよらぬところから扉が開いたので、驚いている。
改めて何かにはまるという新鮮な感覚、
もっと知りたいという新鮮な感覚を味わうことができて、
エヴァにはとても感謝している。