こけし日記

読むことと書くことについて

山崎ナオコーラさん『趣味で腹いっぱい』感想

『趣味で腹いっぱい』を読みました。

    


『趣味で腹いっぱい』の内容
会話を中心に話が進むのでとても読みやすかったです。
主人公の鞠子は「女性活躍」のご時世に、「主婦になりたい」と堂々と言って、趣味に邁進しています。一方の夫の小太郎は、高卒の銀行員で、「働かざるもの、食うべからず」がモットーの父親のもと、働くことが当たり前の環境で育ちます。鞠子のやっている趣味は世間の役にも、鞠子のキャリアにも役に立たないことばかりですが、小太郎は鞠子と結婚したことで、生活に大きな変化が訪れます。

鞠子は働いていないことに対して申し訳なさを感じておらず、また趣味に邁進しているとはいっても、その趣味で身を立てようとか有名になろうとか向上しようといった意志があるわけでもなく、純粋に楽しんでいるだけです。その態度がとても新鮮でした。

趣味に対する思い込み
どうも、趣味は立派なものでないとという思い込みがあります。
趣味なんだから気楽にやればいいのに、例えば読書なら、たくさん読んでないととか、古典を読んでないととか、趣味のいい本を読まないとみたいなプレッシャーはありませんか?
本来は趣味なんて、仕事にはならないとかしたくないけど好きなこととか続けていること、ちょっとした楽しみで生活を潤してくれるものなのに、そこに優劣をつけたり、仕事に役立てなければという思い込みがあるような気がします。

わたしは自分では映画鑑賞が趣味だと思っていますが、人には言いにくいです。なぜなら、月一本も見てないし監督にも俳優にも詳しくないし、話題作もそんなに見てないからです。
それからもう一つ、人にはあまり言いませんが、語学学習も趣味です。
今は英語をやっていますが、TOEICの点数はそんなにいいわけではありませんし、会話もへたくそです。でも、海外ドラマを見ているときに単語が聞き取れたり、こういうときにこの単語の使うんや!という地味な発見が楽しいです。

※ちなみに、以前趣味として語学学習を捉えられないかという内容のブログを書いたことがあります。


映画も語学も一時は極めたいなんてことを思った時期もあったのですが、そうすると続けるのが嫌になりました。
でも、趣味なんだから好きにやればいいやと割り切ったら、楽しくなりました。

趣味と仕事
結構最近のビジネス書を読むと、趣味を活かして仕事に、という話が多いです。例えば食べ歩きが好きならブログを書いてアフィリエイトで儲けようとか、手芸が好きなら手作り品のネットショップで売ろうとか。

そういう本を読むと、趣味は役立てないといけないのかな〜と思っていたのですが、この本を読むと、趣味は趣味でいいんだ!と肯定されたような気がして、頼もしかったです。

正直、わたしの仕事は趣味みたいなものだと言われることがあります。また、結婚しているから趣味みたいな仕事でいいねみたいなことを、はっきりとではありませんが、言われることもあります。
それまではそういう言い方にちょっと嫌な気持ちを抱きつつ、自分だけ楽していると責められているような気持ちになることがありました。
でも、この本を読んで、趣味みたいな仕事でかせいで何が悪い、と自信をもらいました。あんまりそういうことでうじうじしなくていいと言ってもらったような気持ちになりました。

この本のいいところ
わたしはまだ鞠子さんほど割り切れていませんが、働けないことに罪悪感を感じたり、趣味を極めたり役立てられないと引け目に感じることはないんだなと勇気が出ました。
そして何よりこのタイトルが素晴らしい!
『趣味ではらいっぱい』。
「趣味で腹いっぱいにはならない」という風潮や、「働かざるもの、食うべからず」という世間の常識言葉を皮肉っていて、すごく不穏でいいと思いました。
わたしも家族や世間に無駄に肩身の狭い思いを抱かずに、鞠子さんのような気持ちでこれからもやっていきたいです。