こけし日記

読むことと書くことについて

疲れた心にじんわり染みる 餅井アンナ『へんしん不要』

餅井アンナさんの『へんしん不要』を読みました。
「へんしん」は「変身」じゃなくて、「返信」の方。
お返事不要のお手紙ということですが、誰に宛てて書いたものでしょう。

   


本はタバブックスのウェブサイトで連載されているものを書籍化したもので、
 餅井さんは1993年生まれのライターさん。
今の若手のライターってどんな感じだろうと興味本意で手に取ってみましたが、
餅井さんの暮らしは、なんだか大変そう。

春は気候が安定せず体調が左右され、
梅雨は低気圧で、夏は暑くて、秋は動悸と息切れが・・・
と、まあ年中調子はよくなさそうです。

なんだか読んでいると餅井さんは大丈夫かなと心配になりますが、
2018年3月から始まるこの本には、この2年の間に餅井さんが
ライターとして生計を立てる方法を探りつつ、
不調なときの自分の対処法を身につけ、
短時間からのアルバイトも始めて時間も増やして、と
不調なりの生活の仕方を積み重ねていく様子が少しずつ描かれています。
自分はダメと必要以上に自己卑下することも自己憐憫にもおちいらず、
「今の自分はこれくらい」と客観的でありつつ、
親身に語りかける文章は、疲れた心にじんわり染み入ります。

そこではたと気付きました。
これは餅井さんが誰かに書いた手紙というよりも、
過去のあるいは、未来の自分に宛てた手紙なのかもしれないと。
餅井さんは大学時代に心と体の調子を崩して休学して以来、
体調が絶好調ということはなく、早々に正規雇用の就職を諦め、
不安定かもしれないけど、自分の体調と相談しながら生活できる
今のスタイルに落ち着いたそうです。
これは、そんな過去の傷や病気から回復の途上にある中で、
「ここまで来た」っていう足跡を残すために書かれた文章のように感じました。
そして
未来の自分に向かって「大丈夫」って言うための証みたいな文章だなとも思いました。

読んでいてなんだか餅井さんに励まされているような気持ちになりました。