こけし日記

読むことと書くことについて

よい魔法

おまえ、
その手に持っているものはなんだ
よく見ろ、
お前のその手にある
紙とペン

それは、なんなんだ
なんのためにあるのだ
言ってみろ


おい、お前、
聞いているのか
おい、
どっちを向いているんだ
わかっているのか

お前の、
その手にある紙とペンで
書いてきたこと
誰に向けて、
何を言ったのか、
ほんとうにわかっているのか

お前の後生大事にしてきたものが、
その一言で
台無しになるのを、
わかっているのか

お前のその手にある紙とペンが、
何の犠牲もなくお前の手の中にあると、
思っているのか
お前は何も知らない
お前は何もしらないんだ

どうして、お前はそれを忘れてしまったのか

お前の持っているペン、
黒いペンだけではなくて、
赤いペンも


ペンだけではない

カメラも、
コンピュータも
紙も、
印刷機も、
ぜんぶだ

どうやって、手に入れたか、わかっているのか

お前、
お前の言っていることをわかっているのか
お前が今まで言ってきたことを
台無しにしていいのか

お前、お前のその言葉は、
刺だ
わかっているのか

おい、お前
美しいものを描きたかったのではないのか
世界の果てを知りたかったのではないのか
人類の知恵を伝えたかったのではないのか

それがどうして、
お前の紙とペンが、
お前のカメラが、
お前のコンピュータが、
お前の鮮やかな弁舌が、
人に色をつけるためだけのものに
成り果ててしまったのか

お前の言論の自由を認めるとき、
お前の言葉によって倒れる人がいるのだ
どうして、
そのことを忘れていられるんだ

お前のペンと紙、
誰が、その援護射撃してきたか、
わかっているのか

お前、
お前のその世界、
目指す世界
そこには、
誰もいないんじゃないのか

お前の声に
耳を塞ぐやつの方が多いんじゃないのか
そこは荒野で
行き止まりなんじゃないのか

お前の声を、
お前の言葉を、
聞いてくれるやつが欲しいんだろ?

お前、
なら、
お前が語るべきことは、
わかっているだろう

お前の紙とペン、
なんのためにあるんだよ
よく見ろよ

その巧みな弁舌を操れる賢いお前の頭なら、
自分の言葉のように、外国語を操れるお前の舌なら、
美しいものを作り出せるお前の手なら、
わかっているだろう


お前が、何をするべきか
お前が、どこを向くべきか


お前の言葉を、
待っているやつがいるんだ
耳を塞がれる前に
目をおおわれる前に
のどをつぶされる前に
待っているんだよ、お前のことを


忘れるな


お前の持っている、
その紙とペン
それは
ただの紙とペンではない


なんでも書けるだろう
なんでも描けるだろう
しかし
使っていいのは
よい魔法だけだ